- シンガポールの首相、ローレンス・ウォン氏が2024年8月18日に初めて行ったシンガポール建国記念日演説。この歴史的な演説は、国家の未来を描き出す重要な機会となりました。この演説では、家族支援の強化、ギフテッド教育プログラムの導入、職業能力開発支援、公営住宅支援計画の拡充、低所得層の住宅購入支援強化、そして企業の規制負担軽減などの政策改善点が発表されました。これらの施策は、シンガポールの持続的な発展と国民生活の質の向上を目指しており、未来への道筋を示すものとなっています。これらの施策は、まさにシンガポールが目指す未来への羅針盤と言えるでしょう。
- 今回この記事では、家族支援の強化と企業の規制負担軽減について詳しく解説していきます。
家族支援の強化
- シンガポールの出生率は現在 0.97(2023年)であり、これは日本の出生率 1.20(2023年)を下回っています。この低出生率により、シンガポールでは少子化が深刻な問題となっており、将来的な労働人口の減少が懸念されています。このような背景から、労働人口を維持・確保することが国家の重要課題となっており、その一環として家族支援の強化が実施されていると考えます。
- 家族支援の強化の施策として、上記に記載されている通り、法定の父親育児休暇が現在の2週間から4週間に延長されます。これにより、父親が育児により積極的に関与できるようになり、家庭内の役割分担が見直され、女性の社会進出が一層促進されることが期待されます。また、父親が育児に参加することで、子供の健全な成長や家族の絆が強化されるというメリットもあります。
- その他の施策として、シェア育休(夫婦間で育児休業を分割して取得できる制度)が拡充され、2025年には6週間、2026年には10週間の追加育休が導入される予定です。これにより、合計で26週間、さらには30週間の育休が取得可能となり、より柔軟な育児とキャリアの両立が図られます。この施策に関しての義務化はまだ発表されていないため、導入を検討する企業への影響についてこの記事で説明していきます。
- 育児休暇の延長により、従業員のワークライフバランスが向上し、従業員満足度や忠誠心が高まることが期待されます。企業には、育児支援制度や柔軟な勤務形態の導入が求められ、優秀な人材の確保にもつながると考えられます。

企業への影響
企業がシェア育休を導入することによっての恩恵
- 従業員の満足度と定着率の向上:
- 育児休暇の拡充や柔軟な勤務形態の導入により、従業員が家庭生活と仕事を両立しやすくなります。これにより、従業員のワークライフバランスが向上し、仕事に対する満足度や忠誠心が高まります。従業員が自分の企業に対して高い忠誠心を持つことで、従業員の定着率を高めることが出来ます。
- 優秀な人材の確保と維持:
- 家族支援策を充実させることで、子育て中の従業員が働きやすい環境を提供できるため、働く親世代からの支持を得られます。これにより、他社と比較して優秀な人材を確保しやすくなり、また既存の人材の維持にも寄与します。
- 企業のイメージ向上:
- 家族支援を積極的に行う企業は、社会的責任を果たしていると見なされ、企業イメージが向上します。特に女性の社会進出を支援する姿勢が評価され、ジェンダー平等を推進する企業としての評価が高まります。
企業がシェア育休を導入することで、従業員が安心して育児と仕事を両立できる環境を整えることは、企業全体の士気を高め、生産性向上にも繋がることが期待できます。また、優秀な人材の確保と維持は、競争の激しいシンガポールの市場において、企業が成功するための重要な要素だと思います。このような施策を積極的に取り入れることで、企業は社会的責任を果たしつつ、競争力を強化できると考えます。
企業がシェア育休を導入することによっての挑戦
- 日本とシンガポールの文化的な違いと企業風土の調整:
- 日本企業には、従来の労働慣行や企業文化が強く根付いており、職場での一体感を重視する傾向があります。これに対し、シンガポール政府の家族支援施策は、柔軟な勤務形態や長期の育児休暇を奨励しています。この違いを調整し、従業員が育児休暇や柔軟な勤務を取りやすい環境を整えることが求められます。
- コストの増加:
- 育児休暇の延長や柔軟な勤務形態の導入に伴い、企業には従業員の欠員を補うための人員配置や、休暇中の代替人材の採用・トレーニングに関わるコストが増加する可能性があります。
- 柔軟な勤務体制の導入と管理:
- 在宅勤務やフレックスタイム制度の導入が浸透していない日系企業がこの施策を実施するためには、社内のITインフラの整備、適切な勤務管理システムの導入、従業員の意識改革などが必要です。特に今年の12月から始まるフレキシブル・ワーク・アレンジメント (FWA) にリモートワークが増えることで、従業員のパフォーマンス管理やコミュニケーションの質をどう維持するかが課題となります。
- 従業員の多様なニーズへの対応:
- シンガポールの労働市場は多様性に富んでおり、従業員のニーズも多岐にわたります。日系企業は、シンガポール人従業員だけでなく、さまざまな国籍の従業員にも配慮した施策を講じることが不可欠です。これは、施策の公平性を確保し、すべての従業員が安心して働ける環境を提供するために重要です。
これらの課題を克服するためには、状況に応じた柔軟な対応が求められます。育休の長期化であったり、フレキシブルワーキングアレンジメント(FWA)も導入されていく中で、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)が不可欠になっていくと考えます。ITインフラを整えることで、柔軟な働き方を導入し、これらの課題を解決することが出来ます。
企業として長期的な育休にどう対応していくか?
企業として、長期の育休を取る従業員の業務をどうカバーしていくかというところが課題としてあがってくると思います。対応策としては、派遣社員やフリーランサーを一時的に雇うであったり、他の従業員が対応できるように教育するなどの方法が挙げられます。弊社(Good Job Creations)では派遣社員の紹介も行っているので、人材面で支援が必要な際はいつでもご連絡ください。もちろん派遣社員で労働力を補うことは可能ではありますが、管理職などの役職の補強は難しい所もあると思います。そのため、事前に従業員(部下)教育であったり、DX化などの準備をしておくことが重要であると考えます。
従業員が長期の育休制度を利用する際にしなくてはいけない準備とは?
従業員として長期育児休暇を取る場合は、育休中の業務引き継ぎや、復帰後の業務計画をマネージャーや上司と相談をし、育休中も業務が円滑に進行するよう調整が必要になります。そのため、コミュニケーションが成功の鍵となってきます。マネージャーやシニアレベルの役職者は、休暇中に業務が滞らないよう、事前に部下の育成や業務の役割分担を適切に計画・実施することが求められます。そのために、休暇前の準備をしっかりと行うことが必要です。
企業の規制負担を軽減

2024年のナショナルデーラリー演説の中で、ローレンス・ウォン首相は、ビジネスに対する不要な負担を軽減するため、規制を簡素化する計画を発表しました。政府は、よりビジネスをしやすい環境にするために、今後、既存の規則を徹底的に見直す予定との事です。この取り組みは、必要な規制とのバランスを取りながら、シンガポールの国際競争力を向上させることを目的としています。話の中では、ドローンショーのようなイベントの承認プロセスがどのように合理化され、コストが大幅に削減されたかが強調されていました。
今年の中国節分に行われた龍のドローンショーをご覧になられた方も多いと思います。このようなドローンショーには、約1,000個以上のドローンが使用されておりました。規制改善前は、ドローンショーを開催するには、主催者は許可を取得し、すべてのドローンを登録して、ステッカーを貼らなければなりませんでした。1,000枚以上のステッカーが必要なので、コンプライアンス費用としてS$25,000を支払わなくてはいけなかったのです。現在は、この規制が見直され、コンプライアンス費用がS$500となり、大幅に削減されました。
執筆:Ryuya
編集・加筆: Rose
原案(英語):Destiny
調査:Jocelyn