インタビュー担当: Destiny Goh
被面接者: 今北 千佳 氏 プロフィール
本インタビューでは、Greenpac社の最高経営責任者(CEO)である今北千佳 氏より、創業者からバトンを受け継ぎ同社を次のステージへ導くためのリーダーシップ戦略についてお話いただきました。彼女の哲学は、「継承と進化の両立」です。創業時からのサステナビリティへの信念を守りつつ、トップダウン型から自律型の組織文化への変革を目指しています。今北氏は、一貫した行動と共感を通じて信頼を築くことの重要性を示し、単一のリーダーシップ像にとらわれず、全社員が主体的にイノベーションを生み出せる組織を育むことで、すべてのステークホルダーに価値を提供できる強い企業づくりを目指しています。
ご自身のキャリアの歩みと、現在Greenpacの最高経営責任者として掲げている使命についてお聞かせください。
私のキャリアは1999年、アトランタに本社を置く米国の運送会社UPSでのAIESECインターンシップから始まりました。この経験がきっかけとなり、その後20年以上UPSで勤務することとなりました。
アメリカで7年、日本で4年、そしてシンガポールに戻ってからはディレクターとして、最終的にはシンガポールおよびマレーシアのマネージングディレクターを務めました。
2023年にUPSを退職後新たな機会を模索していた中で、最終的にGreenpacに惹かれた理由は二つあります。
第一に、地域社会に大きく貢献をしているシンガポールのローカル企業に、自身の専門知識を活かして貢献したいと考えたこと。
第二に、Greenpacのミッションが、私のこれまでの物流・オペレーション、そしてESG(環境・社会・ガバナンス)の経験と合致していたことです。同社は、ファミリーの価値観に基づいて持続可能な事業に投資するファミリーオフィスTreïsにより所有されています。
包装や梱包は、サプライチェーンにおいて見過ごされがちな分野ですが、その実大きな影響を与えます。私は物流分野で培ってきた経験を活かし、クライアントに対してより持続可能で革新的なサプライチェーン全体の改善提案を行っています。今の役割は、私のこれまでのキャリアと社会貢献への想いが交わる理想的な形です。
創業者による強い起業家型リーダーシップからの移行は、Greenpacにとって大きな変化だったと思います。戦略やKPIの枠を超えて、変革期におけるリーダーシップをどのように定義されていますか。
私たちが掲げるサステナビリティと革新的デザインへの取り組みは一貫していますが、創業者主導の文化からの移行には、意識と文化の変革が必要でした。強力な創業者を中心に築かれた組織では、どうしてもトップダウン型になりやすいです。
私のリーダーシップ哲学は、1人1人が自らの役割に責任を持ち、連携して機能する“精密時計のような組織”を築くことです。この仕組みにより、シンガポールとマレーシアで250名を超える社員を擁するGreenpacは、よりアジャイルでスケーラブルな体制を実現しています。
その実現のため、まずメンバーへの「権限委譲」と「自律性の強化」に注力しました。経営委員会の50%を新メンバーとし、新しい視点を取り入れ、全社的に「自ら考え行動する文化」を根付かせています。
最終的な目標は、指示で動くのではなく主体的に行動できる文化を築くことです。
オペレーション中心の企業からサステナビリティ中心の企業へと移行する際、「目的主導型」への変革ではリーダーシップの在り方はどのように変化しましたか。
Greenpacでは、サステナビリティは創業当初から組織のDNAの一部でした。創業者は「ゼロ・ウェイスト(廃棄ゼロ)」の理念を掲げ、この理念を体現する現事業所を、2012年に当時の副首相ターマン・シャンムガラトナム氏を迎えてオープンしました。屋根全面に設置されたソーラーパネルは、オフィスの電力を100%、操業の50%を賄うほどの発電量を持ちます。
したがって、私の役割は新しい理念を導入することではなく、既に確立された強力な基盤を尊重し、さらに発展させることです。「やるべきことをきちんと実行する」という行動を守りつつ、時代に合わせて生き残り、成長するための戦略を適応させることが私の使命です。
大きな変革期には、従業員の不安や抵抗も生じるかと思います。そのような状況で、どのように透明性のあるコミュニケーションを図り、不安を機会へと転換されましたか。
2024年2月にCEOとして着任した当初、組織には当然ながら不安と緊張がありました。私の最初のステップは、新たなビジョンを提示することでしたが、それはあえて「革新的なもの」にはしませんでした。あくまで「継承と進化」のビジョンです。
全く新しい方向性を打ち出せば、社内の人々を置いてけぼりにしてしまう恐れがあります。リーダーには、「真実」と「誠実さ」のバランスが求められます。
次に重要なのは「信頼を得ること」です。権限を与えられた立場として、私は常に最善を尽くす責任を持っています。そのために、現場に足を運び、耳を傾け、感謝を示し、必要な場面では毅然とした態度で臨みます。
私のリーダーシップは単一のスタイルではなく、全てのステークホルダー―取締役会、顧客、仕入れ先、社員―を最適にするための「奉仕の姿勢」です。真のリーダーシップは、中長期の計画よりも、日々の行動でこそ示されるものだと考えています。
全ての意思決定の基盤に、組織全体の幸福を置くことがとても重要です。
社員が安心して意見を言えるための「心理的に安全な場」をどのように作っていますか。
CEOという立場上、カジュアルな昼食会などで率直な意見を得るのは難しい場合もあります。そのため私は、形式的な場よりも、日常の行動やマネジメント層の姿勢の中で心理的安全性を築くことを重視しています。
マネージャー陣が恐れではなく信頼に基づいて運営できるよう、日々の対話の中で「傾聴」を文化として根付かせています。私自身がその手本となり、意見を受け入れる姿勢を示すこと、またマネージャーたちが自らの部下と真摯に向き合うよう促すことが重要です。
「オープンなコミュニケーション」を単発的な場ではなく、「文化」として定着させることを目指しています。
CEOとして就任後、社員の「納得感」を得るためにどのような取り組みをされましたか。
真の納得感は時間をかけて育まれるものです。私たちは、変革期のマネジメントチーム向けに「ADKARモデル」(Awareness・Desire・Knowledge・Ability・Reinforcement)を用いた研修を行いました。人は「否認」や「怒り」の段階を経て「受容」に至る――変化の心理的プロセスを理解するためです。
しかし、最も重要なのは「一貫性」です。ビジョンやミッション、そして「イノベーション」「パートナーシップ」「卓越」「サステナビリティ」「アジリティ」という5つのコアバリューを、日々繰り返し伝え続けています。
言葉と行動の一貫性を保つことで信頼を築く。それが本当の納得と受容を生む鍵です。
不確実性や失敗を認めつつもチームを導くという信念を、どう維持されていますか。
私は、失敗や挫折を「学びの機会」と捉えています。最近、マレーシアで大きなオペレーション上のトラブルが発生しました。最初に確認したのは「全員無事か」という点です。物的損害は取り戻せますが、人の安全は何より大切です。
この出来事は、私たちが一丸となって改善に取り組むきっかけとなりました。
正しいマインドセットを持てば、失敗は組織を強くする機会になります。
変革期に信頼を損なうリーダーの行動とは何でしょうか。また、もし信頼を損ねた場合それをどう修復しますか。
最も信頼を損なうのは「共感の欠如」です。真のリーダーシップとは、社員が安心して自分らしく働ける環境を築くことです。心理的安全性のない環境では、意見も創造性も生まれません。
米国の著者マシュー・フレイの著書『This is How Your Marriage Ends』に印象的な話があります。彼の離婚は「シンクにコップを置きっぱなしにした」ことから始まったと書かれています。しかし本質はその行為ではなく、繰り返される小さな無関心が積み重なり、相手の尊重を欠いたことにありました。
リーダーも同じです。変革期において社員の不安や感情を軽視すると、信頼関係は簡単に崩れます。
正しいかどうかよりも、相手を理解し共感する姿勢こそが、信頼構築の第一歩です。
Greenpacはアジア全域で展開していますが、文化の多様性にどう対応し、メッセージの一貫性を保たれていますか
幸いにも、私たちの製品は文化的に中立であり、チームも多様でありながら安定しています。マレーシアでは外国籍の従業員も多く、宗教や文化行事に偏らない「中立性」を重んじています。
どの文化を特別視することもなく、それぞれのプロフェッショナル性に焦点を当て、尊重し合う環境を維持しています。こうした姿勢が、一貫性のあるメッセージと文化的受容を両立させています。
多国籍大企業と比べてリソースが限られる、中小企業のGreenpacのような企業から、大企業が学ぶべき点はありますか。
大企業は豊富なリソースを持つ一方で、機能分化が進みすぎると、個人の成長機会が限定される傾向があります。Greenpacのような中小企業では、社員1人1人が複数の役割を担い、幅広いスキルを身につけます。これにより、社員が自らの殻を破り、個人の成長と企業の発展を同時に実現できます。
例えば、IT担当者がサステナビリティリードを兼任したり、調達担当が価格戦略を主導したりしています。私たちは、クロスファンクショナル(部門横断型)の委員会を設け、在庫管理やサステナビリティ向上などの課題解決に取り組んでいます。そして成功したチームには、昇給などの形で成果を評価しています。
この柔軟な仕組みにより、社員は自らの成長が企業価値向上に直結することを実感できます。
新しいスキル習得と挑戦を通じて、自分の貢献を可視化できる環境が、主体性とイノベーションを生む原動力となるのです。
新任リーダーが変革を任された際、最初の90日で最も重要な行動とは何でしょうか。
まず「最初の90日」という考え方を見直すことをお勧めします。多くのリーダーは就任直後に変化を急ぎたくなりますが、私はまず「観察と理解」を優先すべきだと考えています。
入社直後は、問題点ばかりが目につきがちですが、それらは自分の過去の経験に基づくバイアスである可能性もあります。
最も重要なのは、すぐに行動するのではなく、「なぜその仕組みが存在するのか」を深く理解しようとすること。表面的な問題の裏には、チームを支える「役職は無いがリーダー的存在」や「人間関係の力学」があることも多いのです。
早急な「修正」は、時に組織のバランスを崩します。真に理解するまで現状を保つ勇気と自制が、リーダーには求められます。
このようなチームを率いるには強いレジリエンスが求められます。リーダーとして自身のエネルギーと意志を維持するために、どのようなことを意識されていますか?
私は「完璧でない自分を受け入れる」ことを心がけています。自らの欠点や限界を受け入れることで、持続可能なリーダーシップに必要なバランスとエネルギーを保てるのです。
もちろん、私はステークホルダー全体の利益を実現するために、常に最善の判断を下すよう努めています。しかし、最終的には私も一人の人間であり、自分の限界を受け入れて前に進むように意識しています。
変革を進める上で、リーダーが「やめるべきこと」を一つ挙げるとすれば、それは何でしょうか。
リーダーは、「正しいリーダーシップ像」を探すことをやめるべきです。リーダーシップに「これが正解」という形はありません。最も重要なのは「その立場の本質」です。すなわち、リーダーは株主、顧客、サプライヤー、社員といったあらゆるステークホルダーの利益を最適化し、支えるために存在しているということです。
その責任を果たすためには、常に状況に応じて最適な行動を取る必要があります。場合によっては、話すことをやめて「耳を傾ける」ことが求められます。その瞬間に必要な行動を取ることこそが、真のリーダーシップです。
CEOは常に多忙で休む間もないというイメージがあります。どのようにしてキャリアとシンガポール陸軍でのボランティア活動の両立を図っているのですか。
私にとって陸軍でのボランティア活動は、CEOとしての仕事との理想的なバランスをもたらしてくれる存在です。活動を始める前は、基礎軍事訓練(Basic Military Training)を受けました。決して簡単ではありませんでしたが、その厳しさが自分を高めてくれたと感じています。この経験は、完全に思考を切り替えるきっかけを与えてくれます。
特に「展開(Deployment)」の時間を楽しんでいます。日常業務とは全く異なり、戦略を立てたり意思決定を下したりするのではなく、ただ「命令に従う」という行動を取る。それが私にとって、非常に新鮮で心のリセットになるのです。
この経験を通じて、私はシンガポール社会の別の側面を知り、さまざまな背景を持つ人々とつながることができました。それ以来、軍務に携わる男女に対して深い尊敬の念を抱いています。
彼らがどれだけ厳しい訓練を積み、何のために実際に使うことは望まない武器の扱いを完璧に習得しているかを想像してみてください。その精神的な規律と忍耐力は驚くべきものです。彼らは愛する国と人々を守るという強い使命感のもとでこの任務に取り組んでおり、その一員であることが、社会を支える土台への深い感謝の気持ちを私にもたらしています。
今北 千佳 氏 プロフィール
Greenpac 最高経営責任者(CEO)今北 千佳。 20年以上にわたりサプライチェーン分野に携わり、専門性と環境への関心を持つ経営者。 革新的かつ持続可能な産業用パッケージングソリューションを提供するGreenpacを率い、同社を廃棄削減と効率向上を両立するエコデザインの先進企業へと導いている。 同社は東南アジアにおける受賞歴のあるリーダー企業として広く認知されている。